【オンラインインタビュー】日本と世界をつなぐSAI Dance Festival – チェ・ビョンジュ氏が語る情熱と挑戦

目次

国際的な舞台で活躍する日本のダンサーたちを支援し続けるSAIダンスフェスティバル。その創設者であり、企画から運営まですべてを一人で手がけているのが、韓国出身の崔柄珠(チェ・ビョンジュ)さんです。

今回はチェさんに、これまでの歩みやSAIフェスティバルに込めた想いについて、じっくりお話を伺いました。

 

チェさん自身について

SAI Dance ディレクター
SAI Dance ディレクター

ーまずはチェさんご自身について、簡単にご紹介いただけますか?

初めて日本に来たのは、文化庁の在外舞踊家活動助成金をいただき、1年間滞在したことがきっかけです。その後はお茶の水女子大学大学院で修士号と博士号を取得しました。

私はもともとダンサーでしたし、ダンサーとしての道を歩んでいきたかったのですが、残念ながらその道での仕事の機会には恵まれませんでした。ちょうどその頃、日本で『冬のソナタ』による韓流ブーム、いわゆる「ヨン様ブーム」が起こりました。それにより韓国語のニーズが急増し、私は韓国語講師としても活動を始めました。

それでもダンスへの想いは捨てきれず、韓国と日本のダンサーをつなぐ通訳やコーディネーターとして現場に関わり続けてきました。そして、最終的に「SAI Dance Festival」を立ち上げることを決意しました。

 

SAI Dance Festivalについて

ーSAI Dance Festivalを立ち上げられたきっかけについても教えてください。

はい。私がコーディネーターとして活動していた当時、韓国では国の文化支援がとても充実していました。1998年から大統領であった金大中(キム・デジュン)氏が、文化政策に力を入れ始め、海外から招待された舞踊団に対して、知名度に関わらず、航空券代や出演料はもちろん、スタッフの経費まで全額支援するようになりました。

一方で、日本のダンサーたちは、ほとんどが自費で海外に渡っていました。その現状を目の当たりにし、「これほどの経済大国の日本で、このような状況があって良いのだろうか?」と、とても心を痛めました。

また、当時の韓国では、国際的なダンスフェスティバルが数多く開催されており、単に海外の舞踊団を紹介するだけでなく、現地に海外フェスティバルのディレクターを招き、実際に作品を観てもらった上で、優れたものを自国のフェスティバルに招待するというシステムが広まっていました。

その仕組みを見て、「私もこれを日本で実現したい」と強く思うようになり、同様のスタイルを取り入れて2017年に立ち上げたのが「SAI Dance Festival」です。

加えて、当時の日本では、海外で活動するためのルートや方法がダンサーの間であまり知られていませんでした。多くの人は知り合いのつてを頼ったり、限られた情報の中で模索していたんです。なので、私がその架け橋になろうと思ったんです。

 

ーSAI Dance Festivalにはどのような特徴がありますか?

SAI Dance Festivalの大きな特徴のひとつが、「ノンセレクション(選考なし)」である点です。多くのダンスコンペティションでは書類やビデオによる事前審査があり、選ばれた人のみが本選の舞台に立つのが一般的ですが、SAIでは先着順(50作品)で参加者を決定しています。50作品に達した時点で応募を締め切るという、シンプルな仕組みです。今年からは、COMPETITIONをこれまでの1日から2日間に分けて開催します。

この形式により、無名の新人を含むすべてのダンサーに平等なチャンスを提供できると考えています。

さらに、今年のフェスティバルは日韓国交正常化60周年とも関連づけて開催する予定です。

 

コンペティションとエキシビションについて

ーコンペティションとエキシビションについて教えてください。

SAI Dance Festivalは、2つの部門から構成されています。

まず、「コンペティション部門」は日本人ダンサー限定で、今年は全55作品が上演されます(コンペティション1:30作品、コンペティション2:25作品)。すべての作品は海外ディレクターによって審査され、優れた作品が選出されます。

2023年より、海外からの参加希望も多く寄せられたため、各コンペティションに1作品ずつ特別枠として海外作品を加えています。コンペティション1では韓国、コンペティション2ではプエルトリコの作品を上演します。特にプエルトリコのアーティストは、今回海外ディレクターとしても参加される方で、「ぜひ自分も踊りたい」という強い希望を受けて実現しました。

続いて、「エキシビション部門」では、コンペティションでの受賞作品(6〜7作品)に加え、私が海外のフェスティバルで直接選んだ海外の作品を上演します。2日間にわたり、各日7作品ずつです。

「エキシビション1」では、ドイツ、日本、韓国、マカオ、スペインなど、多彩な国の作品がラインナップされています。中でもスペインの作品は、多くの海外ディレクターが高く評価するほどの質で、私自身が強く出演をお願いした、非常に印象深い作品です。

「エキシビション2」では、韓国、香港、カナダ、イタリアの作品が登場します。特に、カナダとイタリアの作品は、何度も交渉を重ねてようやく実現したものです。最終日には、特に見応えのある作品を多数揃えています。

そして、エキシビションの最後は日本の作品で締めくくります。これは賞の結果に関わらず、「日本の作品で締めくくりたい」という私の想いを込めた構成です。

 

ーコンペティションの条件やこだわりについても教えてください。

海外のディレクターに評価され、選ばれるためには、作品の長さも重要な要素です。日本のコンクールなどでは3~4分程度の短い作品が一般的ですが、それらは海外のフェスティバル等では舞台作品として評価されにくい傾向にあります。

そのため、SAI Dance Festivalでは作品の上演時間を約10分に設定しています。実際、他の多くの海外コンペティションでも最低10分以上の作品が求められますし、SAIでも、短すぎる作品はフェスティバルに招待されにくいです。

 

ー参加作品はどのようなジャンルが多いのですか?

当フェスティバルでは、ヒップホップ、演劇、パントマイム、クラシックバレエなど、ジャンルを問わず応募を受け付けています。例えば、タップダンスをベースにしたコンテンポラリーダンスや、中国の伝統舞踊、フラダンスなど、本当に様々なジャンルの作品が集まります。その中からグランプリが選ばれるわけですが、どのジャンルの作品が選ばれるかは全く予測できません。

ただ、私自身の主な関心がコンテンポラリーダンスにあるため、私が選考などで関わる海外フェスティバルもコンテンポラリーダンスが中心です。そのため、結果的に海外からの参加者はコンテンポラリーダンスのダンサーが多くなります。

 

ーパンフレットにあるアルファベットの区分は何ですか?

SAI Dance Festival 2025
SAI Dance Festival 2025

AからKまでの区分は、タイムスケジュール上のグループ分けです。ソロ、デュオ、グループ作品をバランスよく配置し、観客が飽きないように工夫しています。ソロばかり、あるいはデュオばかりが続くといった構成は避け、出演者にもコンペティションでありながら「公演を創っている」という実感を持ってもらえるよう配慮しています。

また、各区分(5作品)は約50分で上演が終わるように設定し、区分ごとに約10分間の休憩を挟みます。その後、次のグループが始まるという流れです。

 

ー海外フェスティバルに招待される作品はどのように選ばれているのですか?

海外フェスティバルへの招待作品は、コンペティションでの受賞有無に関わらず、各海外ディレクターが自分のフェスティバルの特色に合うと感じた作品を自由に選びます。たとえば昨年は、受賞していないにもかかわらず、3つのフェスティバルから選ばれた作品もありました。

一方で、グランプリは点数集計ではなく、審査員である海外ディレクター全員の協議によって決定されます。各作品について議論を重ね、「この作品をグランプリにしよう」と全員で合意して選出するスタイルです。つまり、審査員全員の合意に基づく評価となります。

そのため、フェスティバルへの招待と受賞は必ずしも一致するとは限りません。審査員がそれぞれの視点で「自分のフェスティバルに招待したい」と感じた作品を選んでいるのです。また、招待される作品はコンペティション部門に限らず、エキシビション部門からも選出されます。

 

ー海外ディレクターはどのような国の方がいらっしゃいますか?

初回の海外ディレクターは韓国からお一人だけでしたが、年々増えていき、今年はアジアから4名、その他の地域から4名が参加してくださいます。

アジアからは韓国、香港、マカオ、台湾、その他の地域からはエストニア、カナダ、ドイツ、プエルトリコのディレクターが参加します。

 

フェスティバル運営の裏側

ーフェスティバルの運営はどのように行われているのですか?

基本的に、私一人ですべて運営しています。コンペティション、エキシビションの企画・運営、海外とのやり取りなど、すべて私一人でこなしています。毎日何十通もの問い合わせやメールに対応し、今年だけでも80以上の参加作品の管理を行っています。

 

お手伝いしてくださる方はいらっしゃるのでしょうか?

最初は皆さん、「手伝いたい」と言ってくださるのですが、実際にやってみると、その大変さに気づき、継続するのは難しいと感じられるようです。皆さんは善意で申し出てくれるのですが、やってみるとやはりボランティアでは続けられないというのが現実のようです。

私は自分で始めたイベントなので、どんなに大変でも、たとえ自費を使ってでも続けたいという思いがありますが、お手伝いいただく側からすれば、そこまでの情熱を持つのは難しいんだと思います。

 

ワークショップなどは開催されていますか?

いいえ、過去に数回開催しましたが、現在は行っていません。去年も実施したのですが、残念ながら成功とは言えませんでしたね。東京はワークショップが非常に多く、私一人で広報まで手がけるのは困難でした。

その代わり、現在SAIが行っているのは、コンペティション、エキシビション、プラットフォーム、そして国際ダンスフェスティバルがない地方と連携させた事業です。実際に、2023年からは宮崎との連携を始めました。

現在、SAIはスタッフが不足しているため、ワークショップやセミナーを実施するのは難しいのが現状です。しかし、多額の費用をかけて海外から来日してくれたダンサーたちが、東京でのたった1回の公演だけで終わってしまうのは、非常にもったいないと感じています。そこで、事前に選出した海外作品を、SAIの約1週間後に開催される宮崎のダンスフェスティバルに派遣するという形で連携しています。これは大変好評で、宮崎ではテレビに取り上げられるほどの反響がありました。

今年からは新潟も加わりました。カナダとスペインのダンサーたちは新潟の「スロップハウス」へ、宮崎へはマカオとプエルトリコのダンサーが向かいます。それぞれの場所でワークショップと公演を行いますが、この取り組みには本当にやりがいを感じています。

また、海外のアーティストたちが複数の場所で公演を行うことで、自国での助成金が受けやすくなるというメリットもあります。

 

ーこのフェスティバル以外に取り組んでいることはありますか?

はい、今年から「SAIダンスコミュニティ(西田留美可運営)」というメルマガを始めました。このメルマガでは、SAIを通じて海外公演を経験したダンサーたちのインタビューなどを掲載しています。参加者が海外公演を経験し、「非常に良い経験になった」「自分が成長できた」といった感想を寄せているのを見ると、改めてこのフェスティバルをやって良かったなと感じます。

 

チェさんの想いと目標

ー今後の日本のダンス業界に対する展望があれば教えてください。

もっと日本に多くのダンスプラットフォームが生まれ、海外で活動できる機会が増えてほしいですね。

そして個人的には、助成金をもっとたくさんいただきたいです(笑)。現在の助成金制度では何年か経つと支援が打ち切られてしまうのですが、短期間ではなく、より長期的に支援していただけると本当に助かります。そうでなければ、毎年新しいアイデアを生み出すどころか、助成金の書類を書くのに時間が取られて、1年があっという間に過ぎてしまいますから。支援があれば、私自身もその分、SAIを発展させ、ダンサーたちを育成することに注力できます。

 

ーチェさんの今後の目標を教えてください。

SAIは現在8回目を迎えていますが、最低でも10回までは継続したいと考えています。大きすぎる目標を掲げるのではなく、地道に一歩ずつ進め、できるだけ長くこのイベントを続けていきたいと思っています。

 

【番外編】チェさんが教えてくれた印象的なエピソード

これは少し冗談のような話ですが、以前、韓国のSIDance(ソウル国際ダンスフェスティバル)の世界的に有名なディレクターとご一緒した時のことです。当時、私はフェスティバルを立ち上げたいと考えており、「フェスティバルを成功させるにはどうすればいいですか?3つほどポイントを教えてください」と質問しました。すると、その方は「1金、2金、3金」とおっしゃったんです。最初は本当に笑ってしまいましたが、実際に自分でフェスティバルを始めてみると、その言葉の意味が身に染みてわかるようになりました。

資金があれば、理想のフェスティバルを実現できます。しかし、助成金などの支援がなければ、なかなか難しいのが現実ですね。

 

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