清水哲太郎の演出・振り付けによる「くるみ割り人形」の大きな特徴の一つは、少女クララが一人の人間として成長していく過程を描いている点です。クララは、魔法によって姿を変えられた王子を心から大切に思い、その思いが魔法を解く鍵となります。この貴重な体験を通じて、クララは少女から大人の女性へと一歩を踏み出します。その魂の深化、浄化、純化のプロセスを、プリマ・バレリーナが全幕を通じて演じます。
クララの成長の象徴となるシーンが、お菓子の国で踊る金平糖の精と王子のグラン・パ・ド・ドゥとともに重要な位置を占める、 クララと王子の「別れのパ・ド・ドゥ」です。この踊りには「これからクララも別れという人生の切なさ・苦しさを味わってゆかねばならない」というほろ苦さが込められています。
また、「一見して醜き者(くるみ割り人形)の奥底にも、目には見えない貴さ・美しさ(王子)がひそんでいる」という大切な「気づき」をクララが得る場面も描かれています。これはクララの魂が本当に純粋だからこそ感じ取ることのできるものです。
賑やかなクリスマス・パーティー、ねずみの大群と兵隊人形の戦闘、雪のワルツの一糸乱れぬ群舞など、クライマックス続きの豪華な舞台が繰り広げられ、チャイコフスキーの旋律が全編を貫き、客席を夢の世界へと引き込みます。
アンコールでは、クリスマス・メロディーをメドレーで綴った「ジングルベル組曲」(松山バレエ団オリジナル)が披露されます。
「くるみ割り人形」は、初演から30年以上が経過しても、毎年のように手を加えられ、年間で最も多く上演されている作品です。この作品は、演出振付家やプリマ・バレリーナ、松山バレエ団員、そして関係者の愛情を受けて成長し続けている名作です。